「ダメなお母さん力」という甘い誘惑

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【All About News Dig】連動エントリー


つくづくウンザリしますが、今の日本は「ダメなお母さん力」に満ちあふれています。持ち合わせているのは、女性とは限りません。男女問わず、子どもがいるいないにかかわらず、たくさんの人がいろんな場面で「ダメなお母さん力」を発揮して、話をややこしくしたり、めぐりめぐって世の中を少しずつ窮屈にしたりしています。

ああ、こんなところでも「ダメなお母さん力」が幅を利かせているなあ、と思わされたのが、このニュース。

⇒面白ければ結果はどうなったっていい? AKB握手会の罰ゲームに賛否。(マイナビニュース)

AKB48の全国握手会でメンバーによるチーム対抗ゲーム“A-1グランプリ”が行われた。その罰ゲームは粉まみれになったり、鉄棒にぶら下がって落ちたら体重が明かされるというものだった。戸賀崎支配人やメンバーがGoogle+でその様子を報告したところ、ファンからイベントのあり方について賛否のコメントが殺到している。(記事より)

とのことで、がんばりを称える声がある一方で、ケガを心配する声や「ただ面白ければいいってもんでもないと思う」といった批判の声も多く寄せられたとか。
まあ、運営側もハナから批判は承知だろうし、批判が盛り上がって話題になればそれはそれでしてやったり、ぐらいに思っているかもしれません。そもそもアイドルというお仕事の方たちが、ステージ上で頑張ってやっていることに対して、心配したり運営者側を批判したりするのは大きなお世話です。カラダを張って客を楽しませようとした当人たちに失礼と言ってもいいでしょう。

しかし、「ダメなお母さん力」を発揮したがっている人たちにとっては、当人たちがどんな覚悟と気合いでやっているかなんて関係ありません。「こんなに心配してあげている自分」に酔う気持ちよさに溺れて、己のやさしさを無遠慮に押し付け、応援しているアイドルに試練を課している側をヒステリックに攻撃します。

これは、親がわが子に対して、何でもかんでも「危ないからやめなさい」「とにかく心配かけないで」「あなたを辛い目に遭わせる相手は許せない」というスタンスで接するのと同じ構図。もちろん本当に危険なことや困った事態から守ってあげるのは親の務めですが、場合によっては危険や苦難を承知でグッとこらえて見守らないと、子どもが成長するチャンスを奪うことになります。
しかし「ダメなお母さん力」を発揮するという甘い誘惑に負けてしまっている人は、やさしい自分や子ども思いの自分を手軽に実感するのに忙しくて、子どもの将来を考えるどころではありません。その手の人たちは「もし何かあったら」というリスクは細かく気にしますが、「ダメなお母さん力」が子どもの手足を引っ張って、自分では何も考えられない、自分からは何もしようとしない子どもになってしまうリスクは考えないのでしょうか。考えないんでしょうね。

「ダメなお母さん力」が発揮されるのは、子どもが小さいうちとは限りません。大人になってからも、仕事ができない我が子を指導してくれている上司に勝手に怒りを覚えて、「○○ちゃんをそんな目に遭わせる会社なんて辞めちゃいなさい」なんて言って、子どもの可能性を残酷につぶしたりもします。

こうした悲劇が起きているのは、親子のあいだだけではありません。仕事のいろんな場面でも、何も考えていない上司ほど「何かあったらどうするんだ」という「ダメなお母さん力」に基づいたフレーズで新しい試みをつぶして、部下のヤル気や仕事が発展するチャンスを平気で奪います。本人に悪意がなく、むしろ「あらかじめ危険な芽を摘んでやった俺ってエライ」と得意になってしまうところが、「ダメなお母さん力」の厄介なところ。
多くの会社や組織では、何もしないことで大きなチャンスを失っても、それは計測不可能なので責任を問われることはありません。それより、どうってことないトラブルでも、目に見える失敗をするほうがずっと重罪なので、誰もが競って「ダメなお母さん力」を発揮したがるし、それをおとなしく受け入れがちです。

ちょっと誰かが事件を起こすと、たちまちバッシングの嵐が巻き起こる風潮の背後にも、「ダメなお母さん力」の蔓延ぶりを感じずにはいられません。べつに自分が被害を受けたわけでもないのに、「正しいことを言っている自分」「心を痛めている自分」をアピールするために、ぎゃあぎゃあ騒ぎたがる人が湧いて出てきます。
「ダメなお母さん力」をたっぷり持ち合わせているお母さんが、親戚の子どもの就職や結婚がうまくいかないことについて話すときに、本人は心配しているつもりだけどハタ目には話のネタにして面白がっているようにしか見えない光景と、どこか似ている気がしてなりません。

男女問わず、子どもがいるいないにかかわらず(誤読されそうなのでもう一度書きました)、プライベートでも仕事でも、「ダメなお母さん力」という甘い誘惑に溺れてしまわないように、くれぐれも気をつけましょう。自分の人生にせよ仕事にせよ、周囲が無意識に発揮する「ダメなお母さん力」に邪魔されそうになったら、毅然と立ち向かったりやんわりかわしたりしたいものです。
仮に、自分の母親(あるいは父親)にその力が多分に備わっていたとしても、大人になった今となっては、そういう人だと思って適当に付き合えばたいした被害はないはず。いくつになってもいちいち本気で衝突したり、過去の育てられ方を恨んだりするのは、それこそ「ダメな子ども力」です。そう簡単にはいかないのは承知の上で言っていますが、このままではいけないと思ったら無理してでも呪縛から逃れるのが大人の気合いです。